舌のヒリヒリ、ピリピリ

最近、舌の表面が、「ひりひり」「ぴりぴり」した痛みがでてお困りの方が増えています。歯科や口腔外科、耳鼻科、内科、消化器科などいろいろな科を受診されても、「異常ないから心配ないです」「気のせいです」としかいわれないことが多いようです。
従来、専門家が診察して患者さんが痛いと訴える舌の部位に異常が認められない場合は、「舌痛症」と診断され、心因性と考えられてきました。しかし、最近の研究では、舌痛を訴える患者さんのなかに別の要因が関係している場合があることがわかってきました。

<原因>
その1つ目は、口の中のカビ(真菌のカンジダ)です。
症状はおもに、
①口腔粘膜の表面に拭き取ると除去可能な白苔が存在しその下面の粘膜が赤くただれている場合
②白苔がなく表面の粘膜が赤くなり、舌であれば表面の凹凸が消えて平坦になる場合
があります。②の場合、舌の「ヒリヒリ」「ぴりぴり」とした痛みが生じる場合が多く、心因性の舌痛症との鑑別が問題になります。カンジダ症の場合は、食事や会話など舌を動かして刺激が加わる場合に痛みが増強し、特に熱いものや、味の濃い刺激物は痛くて摂れなくなります。一方、心因性の舌痛症では逆にこのような時は痛みを忘れている場合が多いのが特徴になります。また、心因性の舌痛証では日内変動といって午前中よりも午後や夕方、夜にかけて痛みが増強する場合が多いのですが、カンジダ症ではこのような変動はありません。他に注意したいのは、カンジダ症では両側の口角に難治性のびらんができやすいことです。

また、別の要因として生体内の微量金属であるFe(鉄)、Zn(亜鉛)やビタミンB12が欠乏して特殊な舌炎になることで舌の表面が荒れやすくなり、舌の痛みを生じやすくなります。カンジダ症は細菌の培養検査、微量金属やビタミンの不足は血液検査を行えば結果が分かります。カンジダ菌が検出された場合は抗真菌剤の投与を、微量金属やビタミンの不足の場合はその物質を補充することで容易に症状は改善します。これらが該当しない場合、心因性と考えますが、心因性といってもきっかけは歯科治療が契機となった場合も多く、一時的な舌へのこだわりが長く続くことで知覚神経の回路が混線し、症状が固定化してきます。

舌痛症の原因は未だ十分に解明されていませんが、最近は、「心因性」ではなく「特殊な神経痛」に近い病気で、痛みを感じる神経に障害が生じるためだと考えられています。舌そのものには異常がなくても舌の感覚神経の混線が起こることで舌痛を生じるのです。現在、この状態にもっとも有効な治療法は抗うつ薬と考えられています。抗うつ薬といっても、うつに対しての効果ではなく、神経の情報をスムーズに伝達させる作用がありますので、前述したような特殊な神経痛に良く効くことがわかっています。